[] がんを告知された瞬間、多くの人の頭の中は真っ白になってしまいます。    p36〜38

 死は突然、死があまり念頭(ねんとう)に浮かばなかった人にも突然襲(おそい)いかかり、あっという間にならくの底に突き落としてしまいます。がんの告知はいてもたってもいられない緊張(きんちょう)状態に人を突き落とし、今まで考えてもみなかった、激しい生(せい)への執着(しゅうちゃく)と死の恐怖に直面させます。心臓の鼓動(こどう)は激しく波打ち、どうしていいか全く分からなくなります。

 今まで肉親や友人の死に出会って、死は何となく分かっていたと思っていたのに、いざ自分の死に直面したら、死は全く違った恐ろしい牙(きば)をむいて襲いかかってきます。

 自分の死は誰にも代わってもらうことはできないし、自分で受けとめるしかないからです。自分を包むまわりの世界は一変(いっぺん)し、灰色の世界が出現します。

 自分がこの世から消えてしまう、今自分が立っているこの大地から消えてしまう、自分を取りまく世界は変わらないのに自分だけが消えてしまう、この家、この道、この公園ももう見ることはできなくなります。

 まだやりたいこと、やらねばならないことが山ほどあるのに、恐ろしい、どうしたらいいのでしょうか。不安と絶望(ぜつぼう)と恐怖の深淵(しんえん)が自分の心をおおいつくし、暗く恐ろしい闇(やみ)がどこまでも続いているようです。

 一人になると涙がとめどもなく流れ、髪をかきむしり泣きじゃくります。『なんで私が、なんで私が死ななければならないの・・・・・・』、頭が混乱して何も考えられません。

 一晩中泣き明かし、涙も涸(か)れてしまいます。そのうち疲れと睡眠不足でうとうととした時間が過ぎて行きます。ときどき襲ってくる死の不安、悲しみ、絶望・・・・・・寝ているのか起きているのか、区別のつかない日々がしばらく続きます。

 やがて、起き上がることができないほどの心の重圧(じゅうあつ)を抱(かか)えて、何とか立ち上がろうとしますが中々立ち上がれません。それでも何とかしなければならないと思い、重い足取(あしど)りで一歩一歩自分一人で歩みだします。

 どんな同情の言葉も今は虚(むな)しく聞こえます。愛する家族がいてどんなに慰(なぐさ)められても、何か救われない気持ちです。多分、人は死に対してただ一人孤独に立ち向かい、自分一人で死んで行かねばならないからでしょう。人は、死ぬ前に自分の死を予想できるという悲しい宿命(しゅくめい)を背負(せお)っているのです。

 皆さんは自分の力で立ち上がり、自分で自分の死を納得(なっとく)し、受け入れなければならないでしょう。 

まずは「死とは何か」を一度考えてみてください。「死とは何か」が少しでも理解できたらだいぶ楽になれます。

 その上で、自分に合った納得できる「よし、これでいこう」という、「死の不安の解消法」を見つけてください。

 この本の中の、自分にあった好きな所からページを開いてください。分からない所や、興味がない所は読まなくても大丈夫です。死についての参考書とでも思ってご覧ください。


 さあ死の不安を解消し、『よし、これでよし』という人生を見つけてください。皆さんはこんなに辛(つら)い極限(きょうくげん)状況を切り抜けるわけですから、今まで気付かなかったより豊かな心の世界や、素晴(すば)らしい友達に出会(であ)えるかも知れません。